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仙台高等裁判所秋田支部 平成9年(行コ)4号 判決 1998年3月02日

秋田県湯沢市大工町二番三二号

控訴人

湯沢税務署長 佐藤忠

右指定代理人

伊藤繁

佐藤四郎

佐藤攻

安宅敏也

関谷久

泉利夫

小松豊

加賀谷清孝

秋田県湯沢市元清水七〇番地八

被控訴人

亡高久安太郎訴訟承継人 高久操

秋田県湯沢市元清水七〇番地八

被控訴人

亡高久安太郎訴訟承継人 高久光一

埼玉県板戸市清水町二五―一六

被控訴人

亡高久安太郎訴訟承継人 松本敏子

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

福田哲夫

主文

原判決を取り消す。

本件訴訟は、平成九年六月二三日原審原告高久安太郎の死亡によって終了した。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

原判決を取り消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

第二事案概要等

本件事案の概要及び当事者の主張は、当審における新たな主張を左記のとおり付加するほかは、原判決の「第二 当事者の主張等」(原判決二枚目表四行目から九枚目表四行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

本件において高久安太郎(原審原告、、以下「安太郎」という。)が有していた酒類販売業免許(以下「本件免許」という。)は、一身専属性のものであり、安太郎の死亡によりその相続が承継するものではなく、したがって、本件免許の移転申請に対する拒否処分(以下「本件拒否処分」という。)の取消しを求めていた安太郎の地位も、同様に、安太郎の死亡により、その相続に承継されるものではない。なお、酒税法一九条は、酒類販売業者の相続が引き続き販売業を継続しようとする場合に、一定の手続及び要件のもとに、右相続人が酒類販売業免許を取得することを認めているが、右相続人が取得する免許はあくまでも新規免許であって、被相続人の免許を承継するものではない。

右によれば、本件訴訟は、安太郎の死亡により当然終了したものであって、原判決は無効な判決であるが、無効判決が形式的に存在する以上、原判決を取り消して、訴訟終了宣言をするのが相当である。

二  被控訴人の主張

取消訴訟の係属中に処分の名宛人が死亡した場合において、処分の取消しを求める法律上の利益を実体上承継する者がある場合には、その者が訴訟を承継するのが原則である。営業許可の許認可については、製造たばこの小売業の許可のように相続人が当該許可の効果をそのまま引き継ぐものとされている場合(たばこ事業法二七条)や風俗営業の許可のように相続に際して営業の承継について行政庁の承認があれば被相続人の地位を承継しうるものとされているような場合(風営法七条)は、当該許可処分を求める法律上の利益は相続人に承継される。酒税法一九条の規定は、たばこ事業法のような「地位を承継する」旨の明文の規定は存しないが、内容的には同様であり、酒税法の販売業免許についても、当該許認可の取消処分を求める法律上の利益は相続人に承継されると理解されるべきである。

安太郎の酒類販売業の承継人である被控訴人高久光一(以下「被控訴人光一」という。)は、酒税法一九条所定の酒類販売業相続申告書(以下「相続申告書」という。)を湯沢税務署長に提出しており、酒税法上は、被控訴人光一に同法一〇条一号ないし三号、六号ないし八号の事由が存在しない限り、相続時に安太郎が受けていたと同様の免許を受けたものとみなされる。ところで、実務的には、所轄税務署に相続申告書が提出されると、これについて相続調査が行われ、相続人に対して、「相続適格通知書」を交付する取り扱いがなされているのに、本件では被控訴人光一に対して右「相続適格通知書」が交付されておらず、本件訴訟における控訴人の対応からして、控訴人は被控訴人光一の免許承継を争うものと思われる。したがって、被控訴人らには、安太郎が死亡時までに移転先を販売場とする適法な酒類販売業免許を有していたことを確定する法律上の利益があるし、また、控訴人が被控訴人光一の免許を認めるとしても、右免許にかかる酒類販売場の所在地は、安太郎死亡時の販売所在地となるのであり、販売所在地を決するためにも、本件拒否処分の適否の判断を求める法律上の利益がある。

第三判断

一  本件拒否処分は、安太郎が申請した本件免許についての酒類販売場移転許可申請に対する拒否処分である。

ところで、酒税法九条は、酒類の販売業をしようとする者は、政令で定める手続により、販売場ごとにその販売場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなけれならない旨を規定し、同法一九条一項は、酒類販売業者に相続があった場合に引き続き販売業をしようとする相続人は政令で定める手続により、遅滞なく、その旨を販売場所在地の所轄税務署長に申告しなければならない旨を規定し、これを受けて同条二項は、右申告をした相続人に、同法一〇条所定の除外事由がないときは、当該相続人は、その相続の時において、被相続人が受けていた酒類の販売業免許を受けたものとみなす旨を規定している。右酒税法の規定によれば、酒類販売業者の相続人が右申告によって相続の時において受けたものとみなされる免許は、あくまでも相続人自身の新規免許であって、被相続人が有していた免許を相続によって承継するものではないことが明らかである。

以上によれば、本件免許は安太郎の一身専属のものであり、安太郎の死亡によってその相続人が承継することはできないものであるから、本件免許についての酒類販売場の移転許可申請の拒否処分の取消しを求める安太郎の地位を安太郎の相続人が承継することもないというべきであり、本件訴訟は、安太郎の死亡により当然に終了したものというべきである。

被控訴人らは、被控訴人光一が酒税法一九条一項の相続申告をなしたにもかかわらず、控訴人が被控訴人光一に対し「相続適格通知書」を交付しないことから、控訴人において被控訴人光一が酒税法一九条二項による免許取得を争うことが予想されるとして、被控訴人らには、本件拒否処分の取消しを求める法律上の利益があると主張するが、被控訴人光一が酒税法一九条二項により新規免許を取得したか否かと、本件拒否処分の適否とは、法律上無関係である。さらに、被控訴人らは、被控訴人光一の免許にかかる酒類販売場の所在地は安太郎死亡時の販売場所在地となるから販売場所在地を決するためにも、被控訴人らには本件拒否処分の取消しを求める法律上の利益があると主張するが、仮に、本件拒否処分が取り消されたとしても、本件拒否処分が違法であったという判断が確定するだけであって、その確定によって法律上安太郎のために販売場移転の効力が生ずるものではないから、被控訴人光一は、安太郎の相続が開始した時点においては、販売場移転の許可がない状態の本件免許について前記酒税法一九条の申告を行い、安太郎の免許と同じ内容の免許を取得すると解さざるを得ないのであり、当然に右免許にかかる販売場は、従前の本件免許の販売場ということになる。したがって、被控訴人光一の免許にかかる販売場所在地を決するために本件拒否処分の適否の判断を求める法律上の利益があるとの前記被控訴人の主張は理由がない。また、販売場の移転の許可不許可は、免許を有する特定の個人(もしくは法人)についてなされるものであるから、被控訴人光一が、販売場を移転して営業するためには、同人自身が、改めて自己の免許について販売場の移転許可を取得しなければならないのであり、本件拒否処分の効力と、被控訴人光一の免許についての販売場移転許可申請の可否とは、法律上無関係であるというべきである。

以上によれば、結局、被控訴人光一を含む被控訴人らには、本件拒否処分の取消しを求める法律上の利益はないというべきである。

二  以上の次第で、本件訴訟は、原審口頭弁論終結前である平成九年六月二三日に安太郎が死亡したことによって当然に終了したものであり、これを看過してなされた原判決は当然に無効なものであるが、形式的に判決が存在する以上、原判決を取り消したうえ、訴訟終了宣言をするのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 守屋克彦 裁判官 丸地明子 裁判官 大久保正道)

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